附録二
日本聖公會第一總會を開催するに至りし順序は明治十九年五月大坂に於て開催したるシ、エム、エスの年會に於て三傳道會社の聯合會議を開かんことの議起り、ビカステス監督及ウイリアムス監督共に賛成の意を表して同月其會議を開き、其結果同年七月の代表者會議となり、兩監督に依て起草せられたる法憲法規を附議し、代表者會は之を可決し、翌年即ち明治二十年二月八日英米傳道會社聯合會に之を提出して更に之を可決し、愈々同年二月十一日日本聖公會第一總會に提出するに至つたのである。然るに第一總會に於て決定したる法憲法規と其議事録は今日尚ほ存するも、第一總會に提出したる原案を得る能はざりしが、偶々明治十九年七月の代表者會に提出せられたる法憲法規の英文原稿を手にするを得たり、是れウイリアムス監督がビカステス監督と細心研究して起草せられたるものにして、第一總會に提出せられたる原案の骨子と見て大差なきものと知らる、原案は無論邦文にして今井長老の譯されしものなるが、今其譯文を手にする能はざるを遺憾とす、左に掲くるものは予自ら譯せるものにして當時の譯文原案とは字句の相違もあるべく讀者之を諒せられんことを望む。(元田)
第一條 日本聖公會ハ新舊兩約ノ經典ヲ受ケ之ヲ神ノ靈感ニ依テ與ヘラレ、救ヲ得ルニ必要ナル凡テノ事ヲ包容スルモノナリト信ズ且ツ初代聖公會ノ保守セル所ノニケア信經ト普通ニ使徒信經ト稱セラルヽ信仰ノ道ヲ公認ス
第二條 日本聖公會ハ主基督ノ命シ給ヒシ敎理ヲ守リ、其諸聖典、懲戒ヲ行ヒ、且ツエピスコポ プレスビテロ、デヤコノ、ノ聖職三位階ヲ確守ス
第三條 日本聖公會ハ現在採用セル或ハ將來合法的有權者ニ依テ定メラルベキ祈禱書、聖典及其他敎會ノ諸儀式、エピスコポ、プレスビテロ、デヤコノ、ノ按手式ヲ承認ス
第四條 日本聖公會ハ前三條ニ掲ケタル主義ニ合致スル他ノ基督敎會トノ結合ヲ維持ス
第五條 日本聖公會ハ主降生紀元千八百八十七年ヨリ少クトモ三年ニ一回總會ヲ開ク其場所ト時日ハ日本ニ在住スルエピスコポ之ヲ決定ス、エピスコポハ必要ナル場合ニ依リ臨時總會ヲ召集スルノ權ヲ有ス
第六條 總會ハエピスコポ及所屬地方ニ住スル聖職(懲戒中ニアラザル)并ニ信徒代議員ヲ以テ組織ス二十名以上ノ受聖餐者ヲ有スル敎會ハ一名ノ信徒代議員ヲ出シ得ベク、五十名以上ノモノハ二名ヲ出シ得ベシ、信徒代議員ハ受聖餐者中ヨリ會衆ノ選出スルモノトス
第七條 エピスコポハ聖職及信徒代議員ト可否決ヲ別ニス、聖職信徒代議員ハ之ヲ共ニシ或ハ之ヲ別ニスルヲ得ベシ、而シテ凡テ議案ノ可決ハエピスコポノ多數ト聖職信徒代議員ノ多數トニヨル、エピスコポノ數二人ナル時ハ其一人ガ聖職信徒代議員ノ多數ト同意ナル場合ニ於テ其議案ハ可決ト見倣ス
第八條 總會ノ議權ハ左ノ如シ
一、日本聖公會ノ平安進歩ニ關スル凡テノ事件
二、内國傳道會社ヲ設立シ之ヲ管理スルコト
三、日本聖公會ノ内治ニ關スル事項ノ制定
第一章 聖職志願
第一條 日本聖公會ノ聖職ニ志願スルモノハ次ノ證明書ヲ常置委員ニ差出スベシ
我等ハ直接ノ智職ト信仰ニ依リ何某ハ敬虔誠實ニシテ日本聖公會ノ敎理訓戒拜式ヲ導奉シ令聞アル受餐者タルコトヲ證明シ且ツ聖職準備ノ課程ニ入ルベキ充分ノ資格ヲ有スル者ト認定ス
此證明者ハ所屬敎會ノ牧師及敎會委員ノ記名調印シタルモノナルベク或ハ事情ニ依リ少クトモ日本聖公會ノ長老一名及信徒受聖餐者六名ノ記名調印ヲ以テ之レニ代ユルコトヲ得ベシ
第二條 常置委員ハ右ノ證明書ヲ受ケ志願者ノ健康、智識、道德、宗敎ニ關シテ資格アリト認メタルトキハ次ノ書式ニ依リ委員多數ノ記名調印ヲ以テエピスコポニ推薦スベシ
我等ハ直接ノ智識ニ依リ(或ハ提出セラレタル證明書ニ依リ)何某ハ敬虔誠實ニシテ日本聖公會ノ敎理、訓戒、拜式ヲ導奉シ令聞アル受餐者タルコトヲ證明シ且ツ聖職準備ノ課程ニ入ルベキ充分ノ資格ヲ有スル者ト認定ス
但シエピスコポハ適當ト認ムルトキハ常置委員ヲ經ズシテ直接ニ聖職志願ヲ受クルコトヲ得ベシ
第三條 エピスコポ及常置委員ハ適當ナル機會ニ於テ聖職志願者ニ其長老タルト執事タルトヲ問ハズ、全能ノ神ニ對スル内心的畏敬及禮拜ヲ怠ラズ、聖靈ノ力ヲ感受シ、敬虔ノ念ヲ涵養シ、約言スレバ聖書ニ陳ブル所ノ聖靈ノ果實アル恩寵ヲ受ケ此恩寵ニ依テノミ神ノ力ハ現ハルベキモノナルコトヲ示スハ當然ノ事ナリ
第四條 エピスコポハ常置委員ヨリノ推薦ヲ受領シタル後、デヤコノ候補者トシテ其氏名、許可ノ年月日、記名長老ノ氏名ヲ記録ニ存シテ之ヲ志願者ニ通告シ、同時ニ試驗課目ヲ報知スベシ
第五條 エピスコポヨリ聖職按手ヲ受ケ他ノ基督敎派ノ牧師トナルモノニシテ日本聖公會ノ聖職タランコトヲ希望スル場合ニハ其旨ヲエピスコポニ出願スベシ、エピスコポハ其希望ノ理由、其性行、其神學上ノ素養ニ就キ充分ノ調査ヲナシ、滿足ト認メタルトキハ常置委員ト協議ノ上、第一章第一條第ニ條ニ準シ聖職候補者トシテ受クベシ
第六條 聖職候補者ノ試驗課目ハ和漢文、歴史、心理、倫理、論理、物理ノ大意トス、英語、
但シエピスコポハ充分ノ理由アリト認ムル場合ニハ常置委員ト協議ノ上或試驗課目ヲ省略スルコトヲ得ベシ
第二章 聖職候補
第一條 聖職候補者ノ管理及其神學研究ノ指導ハ監督ニ屬ス
第二條 聖職候補者ハ少クトモ三ケ月ニ一回直接又ハ書面ニテ自己ノ生活ノ状態及神學研究ノ進歩ヲエピスコポニ報告スベシ
第三章 聖職試驗
第一條 デヤコノ候補者ハ試驗委員ニ依テ執行セラルル口頭及筆答試驗ニ應スベシ、エピスコポハ任意出席シテ自ラ試驗スルコトアルベシ
試驗課目ハ左ノ如シ
一、聖書大意、二、舊新兩約聖書中ヨリ撰擇セル數書、三、祈禱書、其歴史及内容、四、敎會歴史及敎會政治 五、牧會學、六、神學、三信經、及大綱、七、辨證學、八、基督敎倫理學、
候補者ハ禮拜司式法及説敎ニ就テ試驗ヲ受クルモノトス
エピスコポハ充分ノ理由アリト認ムル場合ニハ常置委員ト協議ノ上試驗課目ヲ省略スルコトアルベシ、但シ聖書ト祈禱書ノ試驗ヲ省略スルコトヲ得ズ
第二條 他敎派ニ屬シタル候補者ニ對シテハエピスコポハ既ニ學習シ得タリト認メタル課目ノ試驗ヲ省略シ得ベシ、特ニ從來服屬シタル敎派ト聖公會ト異ナル點ニ就テ試驗スベシ
第三條 プレスビテロ候補者ニ對シテハエピスコポハ書目ヲ指定シ、適當ノ時日ニ於テ試驗ヲ行フベシ
第四章 聖職按手
第一條 聖職ニ任命セラルヽモノハ其任命ニ先チ左ノ誓書ニ記名調印スベシ
我舊新約聖書ハ神ノ言ニシテ救ヲ得ルノ要道ヲ悉ク載セタル者ト信ズ又謹デ日本聖公會ノ敎理訓誡拜式ヲ遵奉スルコトヲ誓フ
第二條 聖職候補者ハ候補者トシテ受理セラレシヨリ三ケ年ヲ經ルニアラザレバ按手ヲ受クル能ハズ但シエピスコポニ於テ特別ナル理由アリト認メタル場合、例セバ他ノ敎派ニ於テ既ニ神學上ノ敎育ヲ受ケタルモノヽ場合ノ如キハ其年限ヲ短縮スルコトアルベシ
第三條 日本聖公會ニ於テ執事ノ按手ヲ乞フモノハ先ヅ長老二名(其一名ハ候補者ノ牧師タルヲ可トス)、及所屬敎會委員三分二以上ノ連署シタル左ノ證明書ヲエピスコポ及常置委員ニ提出スベシ、止ムヲ得ザル場合ニハ六名ノ受聖餐者ヲ以テ敎會委員ニ代フルコトヲ得
我等ハ何某ガ過去三ケ年閒ニ於テ敬虔誠實ナル生涯ヲ送クリ而シテ我等ノ知ル所或ハ信ズル所ニ依レバ日本聖公會ノ敎義又ハ訓戒ニ反シタル事項ヲ著シ、敎ヘ、信ジタル事ナク、デヤコノ、ノ聖職ニ按手セラルヽニ適當ナルヲ證明ス
此等ノ證言ハ我等ガ過去一年閒直接候補者ヲ知レル所ニ基キ、殘餘二年閒ハ我等ガ滿足ト認ムル證據ニ依ル、故ニ我等ハ主降生紀元何年何月此證明書ニ記名調印スルモノナリ
第四條 エピスコポ及常置委員ガ此證明書ヲ以テ滿足ト認ムルトキハエピスコポハ候補者ヲ按手スベシ、エピスコポハ之ヲ滿足ト認ムルモ常置委員ニ於テ滿足ト認メザルトキハエピスコポハ書面ヲ以テ自ラ是認シタル理由ヲ常置委員ニ通知シ證明書ヲ受領シタル日ヨリ三ケ月ヲ經過スルニアラザレバ按手スベカラズ
第五條 デヤコノノ職位ニ任ゼラルヽモノハ年齡二十一歳以上ノモノタルベシ
第六條 プレスビテロノ按手ヲ乞フモノハ法規第四章第三條ニ準ジタル證明書ヲエピスコポ及常置委員ニ提出スベシ
第七條 プレスビテロノ職位ニ任ゼラルヽモノハ年齡二十四歳以上ノモノタルベシ
第五章 傳道師
第一條 日本聖公會ノ受聖餐者ハ敎會ノ禮拜ヲ執行シ又ハ講話ヲナスノ認可ヲエピスコポヨリ受クルヲ得ベシ但シエピスコポハ任意ニ其認可ヲ取消スコトヲ得
第二條 傳道師ハ
第三條 傳道師ヲシテ敎會ヲ司牧セシムルトキハ先ヅ其敎會ノ重ナル會員ヨリ左ノ契約書ヲエピスコポニ出サシムベシ
我等何敎會ノ會員ハ向フ三ケ年閒毎月――圓ノ俸給ヲ傳道師ニ支拂フコトヲ努ム
第四條 傳道師ハ其任地ニ於テ信者未信者ヲ訪問スルコトヲ務メ、書面ヲ以テ其事務ノ報告ヲ時々主任プレスビテロニ致スベシ
第六章 通則
第一條 日本聖公會ノ敎會ヲ司牧スル牧師ハ資格ナキモノヲシテ其司牧敎會ノ公禱式ニ加ハラシムベカラズ
第二條 敎會ノ牧師ハ敎會委員之ヲ選擧シ其氏名ヲエピスコポニ通ズベシ、エピスコポハ其資格ヲ調査シ日本聖公會ノ牧師トシテ適當ナリト認メタル時ハ正式ニ任命式ヲ行フベシ、エピスコポハ左ノ書式ヲ敎會委員ヨリ受クルニアラザレバ牧師ヲ任命スルコトヲ得ズ
書式ハ第五章第三條ニ均シ但シ三ケ年ヲ五ケ年トス
第三條 牧師(牧師ナキトクハ敎會委員)ハ其敎會ニ屬スル家族名簿、洗禮、信徒按手受領者、受聖餐者、信施、結婚、埋葬ニ關する諸帳簿ヲ備ヘ、所屬日曜學校及普通學校ノ情況ト共ニ此等ノ事項ヲエピスコポ及總會ニ報告スベシ
第四條 牧師ハ敎會員ニ聖書、公會問答、禮拜式、法憲ヲ敎ヘ、且ツ主日祝齋日ヲ守ルコトヲ敎ユベシ
第五條 牧師ハ凡テ公禱式ニ於テハ祈禱書ヲ用ユベシ
第六條 敎會堂ノ聖別ヲ乞フトキハエピスコポハ當該建物ガ日本聖公會ヨリ離ルヽ危險ナキ證明ヲ得タル後ニ於テ聖別式ヲ執行スベシ、聖別セラレタル敎會堂ハエピスコポノ承認ヲ得ルニアラザレバ他ニ賣却スルヲ得ズ、賣却スル場合ニ於テハエピスコポハ常置委員ノ意見ヲ問フモノトス
第七章 懲戒
第一條 聖職ハ自ラ犯シタル罪過ニ對シテエピスコポニ其責ヲ負フモノトス
第二條 受聖餐者五名(内二名ハプレスビテロ)アルトキハ聖職ヲ常置委員ニ起訴スルコトヲ得
第三條 常置委員ノ多數ガ右ノ起訴ヲ以テ充分ノ理由アリト認ムルトキハ之ヲエピスコポニ告訴スベシ、エピスコポハ規定ノ順序ニ從テ之ヲ處分スベシ
第四條 聖職ハ左ノ諸項ニ對シテエピスコポニ告訴セラルベシ
一、犯罪又ハ不道德ノ行爲
二、日本聖公會ノ敎理ニ背キタルコトヲ公ニ又私ニ行ヒ且ツ敎ユルコト
三、日本聖公會ノ法憲法規ニ違犯スルコト
四、按手式誓約ヲ破ルコト
有罪者ニ對シテハ規定セラルベキ法規ニ從ヒ譴責、停職、及免職ノ處分ヲ與フルモノトス
第五條 聖職ニシテ書面ヲ以テ辭職ヲ申出ヅルトキハエピスコポハ自ラ至當ト信ズル時期ヲ待チ之ヲ二人以上ノプレスビテロノ前ニ於テ宣告シ聖職ヲ免ジタル旨ヲ記録スベシ
第八章 信徒通則
第一條 敎會員又ハ洗禮志願者ガ一ノ敎會ヨリ他ノ敎會ニ轉ゼント欲スルトキハ、所屬敎會ノ牧師ヨリ左ノ書式ニ依リ轉會状ヲ受クベシ
我等ノ愛スル兄弟何某ハ日本聖公會ノ受聖餐者(洗禮志願者)ニシテ今回本敎會ヨリ轉出スルニ就テハ基督ノ公會ニ連レル凡テノ會員、殊ニ我等ノ兄弟何敎會ノ牧師何某ノ厚意ニ托スルモノナリ
場所
年月日 何敎會牧師 何某
第二條 敎會員ニシテ罪惡ヲ行ヒ又ハ明ニ基督ノ信仰ヲ拒ムトキハプレスビテロハ之レニ對シテ聖餐ヲ停止シ之ヲエピスコポニ具申スベシ
第九章 結婚離婚延期
第十章 常置委員
エピスコポハ毎年二名乃至五名ノ長老ヲ常置委員ニ指名スベシ、若シ適當ト認ムルトキハ同數ノ信徒受聖餐者ヲモ加ヘ、法規ニ規定セル事項ヲ處理シ且ツ顧問委員トシテエピスコポヲ補佐セシムベシ、エピスコポ不在ノ時ハ資格上許容シ得ラルヽ範圍ニ於テ常置委員ハ敎政ノ主權タルベシ
第十一章 監督
第一條 日本聖公會ノ進歩發達ニ從ヒ日本エピスコポノ管轄地トシテ敎區ヲ設定スベシ
第二條 日本エピスコポハ設定セラレタル敎區ノ聖職之ヲ選擧シ、信徒ノ承認ヲ求ムベシ
第三條 日本聖公會ノ監督ハ少クトモ日本聖公會ト關聯セル三人ノ監督ニ依テ聖別セラルベシ
第四條 エピスコポニ聖別セラルヽモノハ三十歳以上ノモノタルベシ
但シ日本エピスコポノ聖別セラルヽ前ニ總會ハ選擧法并ニ敎區設置等ニ關スル法規ヲ決定スベシ
第十二章 内國傳道會社(延期)
第十三章 議事ノ定數
總會、常置委員會、其他日本聖公會ニ關係アル凡テノ會議ハ出席スベキモノヽ多數ヲ以テ定數トス而シテ凡テ議決ハ現ニ出席シタルモノヽ多數ニ依ル